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金沢地方裁判所 昭和32年(ワ)390号 判決

原告 西谷一正

被告 大北温泉株式会社

被告補助参加人 岩崎倭市

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

原告訴訟代理人は

「被告会社が昭和二十九年八月二日石川県江沼郡片山津町字片山津温泉ウ二十二番地銀水閣において開催した臨時株主総会における

一、岩崎倭市、宮越久作、東野甚五郎を取締役に、辰巳外次郎を監査役に各選任する。

二、商号を大北温泉株式会社と変更する。

三、本店を石川県江沼郡片山津町字片山津温泉井二十二番地に移転する。

旨の各決議はいずれも無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、

被告会社訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

(請求の原因)

被告会社はもとその商号を大北食品株式会社と称し、その本店を石川県江沼郡橋立町字小塩甲二十番地に有していたが、その後商号を昭和二十五年五月十五日北日本水産株式会社と、更に昭和二十八年五月一日北陸温泉開発株式会社と順次変更するに至つたものであり、一方原告は被告会社の株主にして、かつ被告会社が昭和二十六年六月十日開催した株主総会において取締役に選任され、同月十二日その旨の登記を了したものである。

ところで昭和二十七年、当時被告会社の株主であつた被告会社補助参加人(以下参加人と略称する)外三名は、被告会社の業務並びに財産の状況を知ることを目的として、金沢地方裁判所小松支部に対し、小数株主権の行使による臨時株主総会招集の許可申請をなし、同支部は同年十一月七日右申請を容れて総会招集を許可する旨の決定をなした(同支部昭和二七年(ヒ)第二号)。参加人外三名は右決定に基き昭和二十九年八月二日石川県江沼郡片山津町字片山津温泉ウ二十二番地銀水閣に被告会社の臨時株主総会を招集し、同総会において請求趣旨記載のごとき決議等がなされるに至つた。

しかしながら、右各決議は次の理由により無効である。即ち、株主が裁判所に対し少数株主権に基く株主総会招集の許可申請をなすにあたつては、その招集の目的事項を明示することを要し、これにつき裁判所の許可決定があつた場合には、当該許可事項の範囲内の事項についてのみ株主総会を招集し、決議をなし得るのであつて、これを超える事項についてなされた決議は無効である。参加人外三名は、前叙のとおり、被告会社の業務並びに財産の状況を知ることを目的として株主総会招集の許可申請をなし、裁判所においても右趣旨のもとに総会招集許可の決定をなしたものであるから、前記各決議はいずれも右許可決定の範囲を超える事項についてなされたものというべきであつて、いずれも違法かつ無効であるから茲にその無効確認を求める。

(被告会社の答弁)

原告主張事実中、被告会社の商号が原告主張のように順次変更されるに至つたこと、被告会社の本店がもと原告主張の場所にあつたこと及び原告主張の日にその主張の総会において原告を被告会社の取締役に選任する旨の決議がなされ、その主張の日にその旨の登記がなされたことは認めるが、その余の事実は知らない。

なお、原告の後記和解並びにその承認に関する主張は認める。

(参加人の答弁並びに主張)

一、原告主張事実中、被告会社の商号が原告主張のように順次変更されるに至つたこと、被告会社の本店がもと原告主張の場所にあつたこと、原告主張の日にその主張の総会において原告を被告会社の取締役に選任する旨の決議がなされ、その主張の日にその旨の登記がなされたこと、原告主張の頃、当時被告会社の株主であつた参加人外三名が原告主張の事項を目的として金沢地方裁判所小松支部に対して、少数株主権の行使による臨時株主総会招集の許可申請をなし、その主張の日に同支部がこれを許可する旨の決定をなしたこと(同支部昭和二十七年(ヒ)第二号)、及び参加人外三名が右決定に基き、原告主張の日にその主張の場所において被告会社の臨時株主総会を招集し、同総会においてその主張のような決議等がなされたことは認めるがその余の事実は否認する。右各決議は裁判所の許可に基き招集された株主総会においてなされたものであるから、何等無効と目されるべき筋合のものではない。

なお、原告の後記和解並びにその承認に関する主張事実は知らない。

二、原告は被告会社の正当な株主でも取締役でもなく、被告会社とは何等法律上の関係を有しないから、本件訴は確認の利益を欠くものである。即ち

(一)  原告が被告会社の株主と自称するのは、原告がその先代である訴外亡西谷庄八こと正治より被告会社発行名義の株券の譲渡を受けてこれを所有することによるものであるが、元来同訴外人は被告会社の株主であつたことはなく、右株券にしても同訴外人が擅にこれを偽造作成したものである。従つてかゝる株券を所有しているからといつて原告が被告会社の正当な株主たるべきいわれはない。

(二)  また、原告はその主張の日にその主張の総会において被告会社の取締役に選任決議されたものではあるが、これを招集したもの、これに出席、決議したものはいずれも被告会社の正当な株主ではなかつたから、右選任決議は被告会社の株主総会決議としての効力はない。

三、更に、原告の本訴請求は株主総会決議の成立手続に瑕疵あることを理由とするものであつて、かゝる主張は元来当該決議の日より三ケ月以内に決議取消の訴によつてのみこれをなし得べく、右期間経過後はたとえ真実決議に瑕疵がある場合でも、最早これを争い得なくなるに至るものであるから、右所定期間経過後に提起され、しかも決議の無効確認を求める本訴請求はこの点においても失当である。

(参加人の主張に対する原告の主張)

原告が所有する株券は被告会社が昭和十四年八月二日当時の株主名簿に基き適法に作成発行した真正の株券であつて、参加人主張のような偽造株券ではなく、原告は被告会社の正当な株主である。もつとも、右株主名簿及び株券の真偽に関して地元側株主である訴外亡西谷庄八(正治)等と大阪側株主である参加人等との間に紛争が生じたことはあるが、その後昭和二十二年五月双方間に、前記株主名簿及び株券を以て被告会社の正当な株主名簿及び株券とする旨の和解が成立し、当時の被告会社代行取締役(当時係争中の訴訟事件を本案とする被告会社代表取締役等役員の職務執行停止の仮処分が存続中)であつた訴外吉井政治並びに被告会社株主全員もこれを承認し、茲に右株券の適正、有効なることが確定されたのである。この点からしても原告が被告会社の正当な株主であることが明らかである。

次に、昭和二十六年開催された被告会社株主総会は、当時の代表取締役呉比長七が適法に招集し、これに出席し、決議した者はすべて被告会社の株主であつたのであつて、同総会においてなされた原告を取締役に選任する旨の決議には何等参加人主張のような違法はない。のみならず、株主総会の決議の効力を争う場合には須らく所定の訴を以てこれをなすべきであつて、参加人のように単に一片の抗弁を以てこれをなすことは許されないから、参加人の主張はこの点においても失当である。

(証拠)

原告訴訟代理人は甲第一、二号証、同第三号証の一乃至四、同第四号証の一乃至七(同号証の四は同第三号証の四の正本)、同第五号証の一、二、同第六、七号証、同第八号証の一乃至十、同第九乃至十一号証、同第十二号証の一、二、同第十三乃至十五号証、同第十六号証の一乃至三、同第十七号証の一乃至九、同第十八、十九号証、同第二十号証の一乃至七、同第二十一号証の一乃至三、同第二十二、二十三号証、同第二十四号証の一、二、同第二十五号証の一、二、同第二十六号証の一、二、同第二十七号証の一、二、同第二十八号証、同第二十九号証の一、二、同第三十乃至三十六号証、同三十七号証の一乃至五、同第三十八号証の一乃至三を提出し、丙第一乃至六号証、同第八、十一、十四、十八、三十一、三十四乃至四十三、五十四、六十三、六十四、七十乃至七十九、九十五、九十八、九十九号証の成立は認めるが、その余の丙号証(但し丙第百号証の一乃至六を除く)は不知、と述べ丙第百号証の一乃至六については認否をしなかつた。

被告会社は甲第一、二号証、同第三号証の一乃至四、同第四号証の一乃至七、同第八号証の一、十、同第十号証、同第十二号証の一、同第十三、十四号証、同第十七号証の一乃至九、同第十八号証、同第二十四号証の一、二、同第二十五号証の一、二、同第二十六号証の一、二、同第二十七号証の一、二、同第二十八号証、同第二十九号証の一、二、同第三十五、三十六号証の成立を認め、その余の甲号各証は不知、と述べ、

参加人訴訟代理人は丙第一乃至二十五号証、同第二十六号証の一、二、同第二十七乃至九十九号証、第百号証の一乃至六を提出し証人米川長次郎の証言、参加人岩崎倭市の証言を授用し、甲第一、二号証、同第三号証の一乃至四、同第四号証の一乃至七、同第六、七号証、同第八号証の一、十、同第九乃至十一号証、同第十二号証の一、二、同第十三乃至十五号証、同第十六号証の一乃至三、同第十七号証の一、九、同第十八、第十九号証、同第三十二、三十四号証の成立を認め、その余の甲号各証は不知と述べた。

理由

被告会社がもと商号を大北食品株式会社と称し、その本店を石川県江沼郡橋立町字小塩甲二十番地に有していたところ、その後その商号を昭和二十五年五月十五日北日本水産株式会社と、更に昭和二十八年五月一日北陸温泉開発株式会社と順次変更するに至つたこと、昭和二十六年六月十日開催の被告会社株主総会において、原告を被告会社の取締役に選任する旨の決議がなされ、同月十二日その旨の登記がなされたことは当事者間に争がなく、成立に争ない甲第三号証の一、二、四、(同第四号証の四)第四号証の三によれば、参加人外三名は少数株主権の行使として昭和二十七年金沢地方裁判所小松支部に対し、被告会社の業務の状況並びに財産の状況を会議の目的とする臨時株主総会を招集することの許可を申請し、同支部において同年十一月七日右招集を許可する旨の決定をしたこと(同支部昭和二十七年(ヒ)第二号)、参加人外三名は右決定に基き、昭和二十九年八月二日石川県江沼郡片山津町字片山津温泉ウ二十二番地銀水閣に被告会社の臨時株主総会を招集し、同総会において訴外塚本助次郎を検査役に選任する旨の決議の外、本件請求にかかる各決議がなされたことが認められる。これによつて見れば、本件の請求にかかる決議は、裁判所の許可した会議の目的を逸脱した事項につき決議したもので、違法たるを免れない。しかしこの決議は株主総会の決議たるに全く価しないもの、言いかえると株主総会の決議と認むべきものが存在しないと云うものではない。またその決議の内容が法令又は定款に違反するものではないから、右決議は当然に無効と解することはできない。それはむしろ決議の方法が違法であるとの理由で訴により取消を請求すべきもの(商法第二四七条)と解するのが相当である(この例の決議を当然に無効とする判例-昭和四年四月八日大審院判決-があるが、その後株主総会の決議の取消と無効に関する商法の規定は改正されているから、右判例は本件の事案には適切でないと解する。)

してみると、右理由を以て本件各決議の無効確認を求める本訴請求は既にこの点において失当であるから、爾余の争点について判断するまでもなく理由なきものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 熊谷直之助 森綱郎 小林宣雄)

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